家を建てる時に、ハウスメーカーさんから「この外壁は高耐久なので塗り替えは必要ありません」と言われませんでしたか?
なのに「10年点検時に外壁の塗り替えを勧められた」というお話をよく聞きます(笑)
このようなことを言われた記憶があるという方は要注意です。元々、高耐久コーティーングが施されているサイディングボードは塗料が密着しにくいので「難付着サイディングボード」と呼ばれています。
このページでは、難付着サイディングボードの注意点を説明していきます。
目 次
難付着サイディングボードとは
難付着サイディングボードとは、塗装が密着しにくいサイディングボードのことです。
ひとことで言えば、10年持つ塗料があれば20年持つ塗料があるように、サイディングボードにも高耐久な塗装が施されている商品があり、10~15年くらいではメンテナンスがいらないものが市場に出ているのです。
例えば、本物の石を張っているように見えるようなサイディングボードは石の風合いを出すために何色も使ってあるため、表層のクリアーコーティングも高耐久なものが使用されていることが多いです。
またハウスメーカーさんによっても高耐久サイディングが標準で使用されていることもあるので、材質を見極められる知識も必要になります。特に大手ハウスメーカーのセキスイハウスやトータテ、パナホームは難付着ボードが採用されている確率が高いです。
塗料メーカーはできるだけ長持ちする塗料を開発しようとしますが、そう考えるのは塗料メーカーだけではなく、サイディングメーカーや屋根材メーカーも同じことを考えて商品を開発しますから、高耐久なサイディングボードが世の中に存在しているわけです。
サイディングボードも工場でかたどったボードの素地に塗装コーティングをしてサイディングボードを作っているので、表層に光触媒や無機質コーティングが施してあるボードも存在します。
現在はこうした高耐久サイディングが張られた住宅が塗り替え時期を迎えている時代に突入しており、難付着サイディングボードとは知らずに普通に塗装してしまうと、大失敗をしてしまう可能性があるのでご注意ください。
難付着ボードがなぜ厄介なのか
難付着ボードは高耐久なので、10年程度では塗り替える必要はありません。
しかし、厄介なのは表面のクリアーコーティングは活きていて、クリアー層の下の色が付いている層だけ変色しているようなケースです。
右の画像は見た目では全く判断できないのですが、テープを張って剥がしてみると、テープののり面にクリアー層がくっついて剥がれています。これは表層のクリアー層だけが下層の塗膜から剥離している状態を示しています。
この状態の外壁に塗装したとすれば、剥がれかけているクリアー層の上から塗装するわけですから、近い将来クリアー層ごと剥がれてしまうことが予想されます。
次の画像は光触媒コーティングが施されている外壁で、水を噴霧すると超親水性(水を弾かずなじむ性質)を維持していることが分かります。
ワックスをかけたばかりの車は水を弾きますが、これは撥水性といい、身近なものではフッ素加工のフライパンがこれに当たります。
親水性は撥水性の逆で水がなじむ性質のことで、身近なものではコンタクトレンズがこれに当たります。
もしこの外壁に普通に塗装したとすれば剥がれてしまいます。では塗装しなければいいじゃないか、ということなのですが、右の画像は外壁が色褪せていますよね。
このように、表層は活膜であっても色褪せやシーリングの切れなどがあれば塗り替えたくなるものではないでしょうか?
さらに、表面のクリアーコーティングが健全な状態で残っている方角面もあるので、東西南北面の外壁はすべて状態をチェックしなければなりません。
表層のクリアーコーティングが活きているかどうかは肉眼では判断できません。手で触ってみてもわかりません。大切なのは難付着ボードが混ざっていることを知っておくこと、本塗装前にテスト施工をしてみることです。
難付着ボードに普通に塗装するとどうなる?
難付着サイディングボードに普通に塗装すると、新しい塗膜がベロンとはがれてしまったり、ただれたようになってしまうことがあります。これは、元のコーティングがまだ活きている上に塗装をしたことで、新しい塗料がくっつかず、熱などの影響ではがれてしまう現象です。
私たち塗装店は、傷んだ外壁や屋根などを塗り替えることで家を長持ちさせる努力をしていますが、ハウスメーカーさんやサイディングボードメーカーさんは、将来できるだけ塗り替えたりする必要がない、メンテナンスフリーの家を創ろうと努力しています。
ただし、現実ではメンテナンスフリーの家はできていません。例えば、25~30年塗り替える必要がない外壁なのに、築後4~5年でコケやカビが目立つということはよくあります。
外壁が汚れて見すぼらしくなったらきれいにしたくなりますよね?コケやカビなどの汚れの問題と205~30年塗り替える必要がない外壁とは別問題なのです。
難付着サイディングボードかどうかを見極める方法
難付着サイディングかどうかを見極めるには、以下の4つ方法があります。
方法1.築年数から判断する
難付着サイディングボードは2001年頃を境に市場に出始めているため、2001年頃あるいはそれ以降に建築されたお家であればこれに当たる可能性があるので注意が必要です。
特に、高意匠サイディングと言って、見た目が本物のレンガのように見える外壁であったり、意匠性が高い外壁であれば難付着サイディングボードの可能性があります。
難付着サイディングボードかどうかを見極めるには、築年数が目安になりますが、外壁の状態からも判断することができます。
方法2.チョーキングしているかを確認する
難付着サイディングボードは、高耐久なコーティングが施されているため、チョーキング(手で触ると白い粉がつく現象)しにくいです。ですから、まず東西南北面のサイディングを手で触ってみてチョーキングしているかどうかをチェックします。
画像のように指先に白い粉が付くようであれば、難付着サイディングボードではないので通常通りの塗装で大丈夫です。しかし、築後15年以上経過しているのにチョーキングしていないような場合は、難付着サイディングボードの可能性が高いです。
ここでの注意点は、検査する部位はどこでも良いというわけではなく、特に日当たりが良い南面や西面でチェックすることが重要になります。
方法3.親水性検査をする
現在主流の塗料のほとんどが親水性の性質を持っています。親水性(しんすいせい)とは、ワックスがかかっていない車のように水を弾かずじわ~っと馴染ませる性質のことです。
外壁を親水性にしている理由は、雨水を外壁になじませることで壁の汚れを洗い流すことできれいを持続させたいという考えがあるからです。
外壁にスプレーで水をかけてみることで、親水性の程度がわかります。外壁に水が馴染む場合は、難付着サイディングボードの可能性が高いです。
高耐久なコーティングがなされている外壁ほど、超親水性塗膜になっています。例えば、光触媒コーティングが良い例で、水をかけると驚くほど外壁に水が馴染んでしまいます。べちゃ~という感じです。
※親水性塗膜は、コケやカビの温床になっていたり、雨漏りを誘発させたりと問題も多々あるのですが、その点についてはこのページでは割愛します。
方法4.ラッカーシンナーで拭いて塗料が溶けるか確認する
ラッカーシンナーで、外壁を拭いてみるというやり方もあります。それで元の塗料が溶けるようであれば、難付着サイディングボードではありません。
ラッカーシンナーで拭いてみても、元の塗料が溶けない場合は難付着サイディングの可能性が高いです。
ただし、この検査方法には注意が必要です。なぜなら、まだ塗装することが決まっていない段階で旧塗膜が溶けてしまった場合、元には戻りません。
この検査方法は、すでに塗り替えることと業者が決まっている場合にのみ試せる方法になります。
難付着サイディングボードの外壁塗装の流れ
昨今は、住宅メーカーさんがメンテナンスフリー化を図っておられるので、〝外壁は10年で塗り替えるもの”という概念ではなくなってきています。しかし、全く塗装メンテナンスをしなくても良いということではありません。
そのため、塗料メーカーさんも対応策を考えていて、難付着サイディングボードの上からでも塗れる新しい下地処理材を開発して販売してくれています。
ただし、このような下地処理材を使えばトラブルは起こらないというレベルには達しておらず、それでも剥がれてしまう場合があるので注意が必要です。
以下は、弊社で難付着サイディングボードの外壁塗装をしたときの流れです。
1.素地調整
こちらの画像はサイディング表面の塗膜コーティングが剥がれている画像です。真夏に日焼けした肌の皮がむける状態によく似ています。
元々、難付着だったサイディングにコーティングしてあった塗膜が、経年劣化で剥がれてしまったものです。これを「脆弱層(ぜいじゃくそう)」といいます。
新たに塗装するにはこの脆弱層をできるだけ除去しなければなりませんが、高圧洗浄だけではすべてを除去することはできず、残ってしまいます。そのため、全面をサンドペーパーやスコッチブライトで研磨します。
また、サイディングボードの表面は凹凸形状になっていますから、凹んでいる部分の目地の中もしっかり研磨して清掃します。
この段階から、一般的なシーラーという下塗り材を塗るとどうなるか実験してみました。実験については、次項でご紹介します。
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電動サンドペーパーで研磨します
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スコッチブライトで目地の中もしっかりと研磨します
2.難付着サイディング専用シーラー塗布
シーラーには水性タイプとシンナーを使う弱溶剤タイプがありますが、この現場では水性より弱溶剤型の方が良い結果が出ました。
弱溶剤タイプは若干シンナーのにおいがしますが、有害物質も抑えらえているのでクレームが出るほどではありません。また、近隣にもあらかじめ周知しておけば、未然にトラブルは防げるのではないかと思います。
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難付着サイディングボード用の専用シーラー塗布中
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難付着サイディングボード用の専用シーラー塗布後
3.上塗り塗装
下地処理の方法と下塗り材(シーラー)の選定が最も重要なので、ここまでくれば上塗り材は特に制限はありませんが、おすすめは遮熱機能の付いた上塗り材です。
遮熱機能がついていない塗料を塗るなら、仕上げの色は薄い色を選ぶようにすると熱を反射してくれるので、より安心できるのではないかと思います。(白は熱を反射するが黒は熱を吸収する)
難付着サイディングボードが塗り替え時期に入ってきている時代なので、今後剥がれるトラブルが増えてくるのではないかと予想できます。そのため、このような特殊なサイディングボードの塗り替えは、経験のある塗装店か研究熱心な塗装店にご相談されることをお勧めします。
密着テストとは
各塗料メーカーから難付着ボード用のシーラー(下塗り材)が発売されています。ところが、「この下塗り材は万能だとかこれだけ持ってれば大丈夫!」というような商品がないのです。よく密着します!と言って密着しないのが塗装業界の常なのです。
例えば、画像のようにA.B.Cの3種類の下塗り材があるとします。①の家にはAの下塗り材が最も密着したとしても、②の家にはAは密着せずBの下塗り材が最も密着することがあります。
あるいは、5件の難付着ボードの家があるとして、Aの下塗り材が最初の3件に密着したからと言って残りの2件も密着するとは限りません。ここが困ったものなのです。
さらに南面と北面では陽当たりがことなるため外壁の劣化速度に差異が生じますから、南面でのテスト結果が他の方角面にも当てはまるかどうかはわからないのです。
こうしたことから大同防水では、東西南北面すべての方角で密着テストを行うようにしています。
密着テストの方法
密着テスト 実例1
密着テストはクロスカット工法にて行います。
クロスカット工法は、実際に塗布して24時間経過した塗膜を碁盤目状にカッターナイフで傷をつけて、ガムテープを張って剥がし、ガムテープ側に何パーセントの塗膜が付着しているかを判断する方法です。※セロハンテープを使うのが基準ですが大同防水はさらに過酷なガムテープでテストしています
さらに失敗を未然に防ぐため、密着テストに合格した下塗り材を実際に塗布して乾燥させた後にテープ張り試験を行い、下塗りが密着しているかどうかを確認します。
テープに下塗り塗料がくっつかなければ密着成功ですが、ここで剥がれてしまうとまた一からやり直さなければなりません。
一見、ただなんでも塗りさえすればよいように見えるかもしれない塗り替え工事ですが、実はそんな甘いものではないのです。
大同防水は何を塗っても10年保証しています。お客様に安心して頂くことはもちろんですが、私共も安心して施工したいのです。だから密着テストが重要だと考えています。
密着テスト 実例2
前項の現場で行った密着テストです。下の画像は、よくくっつく(密着する)という別々のメーカーのシーラーを3種類塗って、乾燥硬化させてからテープを張ってはがしてみた画像です。
ガムテープののり面に塗膜がくっついていますよね。これは3種類のシーラーすべてが下地にしっかりと密着していないということです。この結果から、これらのシーラーは使ってはいけないということと、このままの状態では塗装してはいけないということが判断できます。
一般的に「よくくっつきますよ」というシーラーを使ってもこの結果ですから、何でもメーカーさんの言うことを鵜呑みにしてはいけないということになります。
次に、専用のシーラーで密着テストを行いました。
まず研磨しただけでは弱い塗膜(脆弱層)が残ってしまうことがわかったので、この弱い塗膜(脆弱層)をできるだけ剥がすために、ガムテープを張って脆弱層を剥がすことにしました。
下の画像は、弱い塗膜を剥がした上から最初の3種類のシーラーとは違う別の専用シーラーを塗って、同じように密着試験をおこなった後のものです。
この方法で、残った塗膜を剥がしてから専用シーラーを塗れば密着することがわかったので、いよいよ本塗装に入ります。
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サイディング全面に布製のガムテープを張ります。
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しっかり転圧してガムテープを剥がします。ガムテープののり面に塗膜が着いています。
これで残っていた塗膜を除去できたので、ようやく下塗り(シーラー)工程に移ることができます。
ここまで来るのに本当に大変ですが、実験しないで塗装するのと実験してから塗装するのとでは安心感が全然違います。
もちろん、これなら絶対に剥がれないということではありませんが、剥がれるリスクはかなり低くなります。
まとめ
家を建てる時に、ハウスメーカーさんから「この外壁は高耐久なので塗り替えは必要ありません」と言われた場合は、難付着サイディングの可能性が高いです。
その他の見極め方は
・2001年頃かそれ以降に建てられた家
・築15年以上経っているのに外壁がチョーキングしていない
・外壁に水をかけると馴染む(親水性)
・ラッカーシンナーで拭いて塗料が溶ける【オススメしません】
これらに該当する場合は、難付着サイディングの可能性があります。
難付着サイディングを普通に塗装すると、直ぐに剥がれてきます。そのため、高圧洗浄した後にサンドペーパーで研磨し、さらにガムテープなどで残った塗膜を剝がします。そのあとに、専用の下塗り材を使い塗装していきます。
難付着サイディングが塗り替え時期に入ってきている時代なので、剥がれるトラブルが増えてくるのではないかと予想します。このような特殊なサイディングボードの塗り替えは、経験のある塗装店か、研究熱心な塗装店にご相談されることをお勧めします。